縁・ガレージの舎
<プロセスから家づくりを楽しむ>
高知市郊外。よく手入れされた黒色の板引き戸を開けると、こだわりのアンティークカーと庭の緑が目に飛び込んできます。16年前、我々は母屋の改修と納屋部分の建て替えを依頼されました。施主の彼末夫妻は、当時40代前半。家づくりはじめて、地元の木で家を建てる建築士を紹介する「木と人・出会い館」のTV番組やバスツアーでたくさんの事例を見たり、何人かの建築士にも会われたりしたそうです。
「趣味と共存する家をイメージし、『愛車を眺めたい』という希望を話したところ、唯一乗ってくれたのが聖さんで、夜須町Rue Caféの‟聖瓦‟(二度目の甍賞金賞を獲得)のことも知っていたし、新しい提案や柔軟な発想、何より話しやすかったことが依頼の決め手でした。」とご主人は語ります。
敷地が「市街化調整区域」で許可申請が必要であったこともあり、設計期間はたっぷり1年。さらに、工事は住みながら約10カ月の時間がかかりました。普通なら、早く新しい家に住みたいと思うところですが、ご主人は、母屋に仮住まいしながら工事が進む様子を見られて、「毎日が楽しかった。」と回想されます。
<愛車をどこからでも眺められる家>
彼末さんの希望は、普通ではないオリジナルな家にしたいということでした。
趣味の車をどこからでも眺められるように、リビングの隣のデッキの上に置きました。 それは、駐車スペースを家の中に入れるのではなく、家の居間に車を置く感覚。車がない時には、そこが「縁側」になるような新しいガレージの考え方です。
家の空間を構成するのは、高知県産木材・土佐漆喰・土佐和紙などの自然素材。いわゆる「土佐派」の要素ですが、屋根にガラスを使ったり、緩い勾配にしたり、伝統だけではない自由な家になりました。愛車を居間から眺められる、自然素材に包まれた木の家は、『Garage Life vol.34』に掲載され話題になり、ご友人が車と共に記念撮影に来られたエピソードも生まれたようです。
<車も家も庭も愛しんで>
竣工時のフローリング塗装に始まり、板壁の塗装、木部の水染み取り、外壁漆喰のカビ取りなど、できることはご自身でなさっています。「自分がきれいに住みたいからメンテナンスは苦になりません。」とご主人。この14年間で、大掛かりな修繕は2.3回とのこと。設備の不具合や、プロが行う必要があるメンテナンスなどは聖に連絡くださるので、継続的なお付き合いになっています。家が完成してから、ご主人の趣味に庭づくりが加わりました。中庭はナチュラル、南庭は和風とそれぞれに趣があり生活に彩りを添えています。
<これから家づくりをする人へ>
これから家を建てる方にメッセージをお願いしました。
「子ども部屋は小さくてよかった。すぐ巣立ちます。」
設計していた当時、中学生だった二人のお嬢さんは、高校卒業と同時に県外に出られました。住んでいたころはお友達が泊まりに来たり、BBQをしたり、楽しい思い出がいっぱいですが、年月によりライフスタイルは変わります。二人の子供部屋はそれぞれ4畳半で間仕切りは、外せるようにパネルにしていました。
もう一つ、「家を建てるとき、こだわりを1つ持った方がいい。そしてお金はできるだけかけたほうがいい(笑)」後悔のないように、決断するということでしょうか。彼末さんの今の夢は、「着物を着て暮らしたい。」とのこと。
趣味を楽しみ、家を楽しみ、暮らしを楽しむ。オリジナルでスペシャルな暮らし方。これからも楽しんでください。